酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習の解説
作業主任者についての労働安全衛生法のきまり
そもそも作業主任者とはどんな立場の人でしょうか?
労働安全衛生法は「作業主任者」について以下のように定めています。
(作業主任者)
労働安全衛生法 第14条 事業者は、高圧室内作業その他の労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるもの→労働安全衛生法施行令 第6条[下記参照]
については、都道府県労働局⻑の免許を受けた者又は都道府県労働局⻑の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該作業の区分に応じて、作業主任者を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。
危険又は有害な作業は多くありますが、その中でも特に危険性や有害性の高い作業については高度な知識と豊富な経験を持つ「管理者」が作業現場に常駐し、作業者を指揮する必要があります。その管理者を「作業主任者」といいます。事業者は作業の種類により「免許所持者」又は「技能講習修了者」の中から選任する必要があります。(酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者の場合は「技能講習」の修了が必要です。)
なお石綿作業主任者の職務の具体的な内容は、「酸素欠乏症等防止規則」により定められています。
作業主任者の選任について
作業主任者は有資格者の中から事業者が選任する必要があります。なお作業主任者の選任が必要な「作業の区分」、「必要な資格」、「作業主任者の名称」は、労働安全衛生規則 別表第1(下表参照)に記載されています。
(作業主任者の選任)
労働安全衛生規則 第16条 法第14条の規定による作業主任者の選任は、労働安全衛生規則 別表第1の上欄に掲げる作業の区分に応じて、同表の中欄に掲げる資格を有する者のうちから行なうものとし、その作業主任者の名称は、同表の下欄に掲げるとおりとする。
※原文をわかりやすく変えています。
「酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習」の根拠はこちら。
労働安全衛生規則 別表第1
作業の区分 | 労働安全衛生法施行令 第6条第21号(下記参照)の作業で、下の表の酸素欠乏の危険と、酸素欠乏と硫化水素中毒の両方の危険のある場所での作業。 |
必要な資格 | 酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習を修了した者 |
作業主任者の名称 | 酸素欠乏危険作業主任者 |
なお酸素欠乏危険場所に限定した(下の表の緑)の技能講習も存在します。
これを「酸素欠乏危険作業主任者技能講習」といいます。この講習は硫化水素中毒の危険な場所での作業はできませんのでご注意下さい。
酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者を選任が必要な作業について
酸素欠乏危険作業主任者が必要な作業の種類は以下のように定められています。
労働安全衛生法施行令 第6条第21号
別表第6に掲げる酸素欠乏危険場所における作業
労働安全衛生法施行令 別表第6 酸素欠乏危険場所(第6条、第21条関係)
下記表の緑は、酸素欠乏の危険のある場所です。この場所での作業は、「第1種酸素欠乏危険作業」といいます。
オレンジは、酸素欠乏と硫化水素中毒の両方の危険のある場所です。この場所での作業は、「第2 種酸素欠乏危険作業」といいます。
1 次の地層に接し、又は通ずる井戶等(井戶、井筒、たて坑、ずい道、潜函(かん)、ピツトその他これらに類するものをいう。次号において同じ。)の内部(次号に掲げる場所を除く。)
イ 上層に不透水層がある砂れき層のうち含水若しくは湧(ゆう)水がなく、又は少ない部分
ロ 第一鉄塩類又は第一マンガン塩類を含有している地層
ハ メタン、エタン又はブタンを含有する地層
ニ 炭酸水を湧(ゆう)出しており、又は湧(ゆう)出するおそれのある地層
ホ 腐泥層
2 ⻑期間使用されていない井戶等の内部
3 ケーブル、ガス管その他地下に敷設される物を収容するための暗きよ、マンホール又はピツトの内部
3-2 雨水、河川の流水又は湧(ゆう)水が滞留しており、又は滞留したことのある槽、暗きよ、マンホール又はピツトの内部
3-3 海水が滞留しており、若しくは滞留したことのある熱交換器、管、暗きよ、マンホール、溝若しくはピツト(以下この号において「熱交換器等」という。)又は海水を相当期間入れてあり、若しくは入れたことのある熱交換器等の内部
4 相当期間密閉されていた鋼製のボイラー、タンク、反応塔、船倉その他その内壁が酸化されやすい施設(その内壁がステンレス鋼製のもの又はその内壁の酸化を防止するために必要な措置が講ぜられているものを除く。)の内部
5 石炭、亜炭、硫化鉱、鋼材、くず鉄、原木、チツプ、乾性油、魚油その他空気中の酸素を吸収する物質を入れてあるタンク、船倉、ホツパーその他の貯蔵施設の内部
6 天井、床若しくは周壁又は格納物が乾性油を含むペイントで塗装され、そのペイントが乾燥する前に密閉された地下室、倉庫、タンク、船倉その他通風が不十分な施設の内部
7 穀物若しくは飼料の貯蔵、果菜の熟成、種子の発芽又はきのこ類の栽培のために使用しているサイロ、むろ、倉庫、船倉又はピツトの内部
8 しようゆ、酒類、もろみ、酵母その他発酵する物を入れてあり、又は入れたことのあるタンク、むろ又は醸造槽の内部
9 し尿、腐泥、汚水、パルプ液その他腐敗し、又は分解しやすい物質を入れてあり、又は入れたことのあるタンク、船倉、槽、管、暗きよ、マンホール、溝又はピツトの内部
10 ドライアイスを使用して冷蔵、冷凍又は水セメントのあく抜きを行つている冷蔵庫、冷凍庫、保冷貨車、保冷貨物自動車、船倉又は冷凍コンテナーの内部
11 ヘリウム、アルゴン、窒素、フロン、炭酸ガスその他不活性の気体を入れてあり、又は入れたことのあるボイラー、タンク、反応塔、船倉その他の施設の内部
12 前各号に掲げる場所のほか、厚生労働大臣が定める場所
酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習のきまり
酸素欠乏症等防止規則で技能講習の受講科目や時間などが定められています。この技能講習を修了すれば「酸素欠乏危険作業主任者」の資格を得ることができます。
酸素欠乏症等防止規則 第27条(酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習の講習科目)(一部読み替え)
2 学科講習は、次の科目について行う。
① 酸素欠乏症、硫化水素中毒及び救急そ生に関する知識
② 酸素欠乏及び硫化水素の発生の原因及び防止措置に関する知識
③ 保護具に関する知識
④ 関係法令
3 実技講習は、次の科目について行う。
① 救急そ生の方法
② 酸素及び硫化水素の濃度の測定方法
この他に「学科修了試験」と「実技修了試験」があります。これらの修了試験に合格し、「技能講習修了証」を交付された後に「酸素欠乏危険作業主任者」になることができます。
酸素欠乏危険作業主任者のしごと
作業主任者の職務の内容は、「酸素欠乏症等防止規則」において定められています。
酸素欠乏症等防止規則 第11条
1 事業者は、酸素欠乏危険作業については、
第一種酸素欠乏危険作業にあっては酸素欠乏危険作業主任者技能講習又は酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習を修了した者のうちから、
第二種酸素欠乏危険作業にあっては酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習を修了した者のうちから、
「酸素欠乏危険作業主任者」を選任しなければならない。
2 事業者は、第一種酸素欠乏危険作業に係る酸素欠乏危険作業主任者に、次の事項を行わせなければならない。
①作業に従事する労働者が酸素欠乏の空気を吸入しないように、作業の方法を決定し、労働者を指揮すること。
②その日の作業を開始する前、作業に従事するすべての労働者が作業を行う場所を離れた後再び作業を開始する前及び労働者の身体、換気装置等に異常があつたときに、作業を行う場所の空気中の酸素の濃度を測定すること。
③測定器具、換気装置、空気呼吸器等その他労働者が酸素欠乏症にかかることを防止するための器具又は設備を点検すること。
④空気呼吸器等の使用状況を監視すること。
3 前項の規定は、第二種酸素欠乏危険作業に係る酸素欠乏危険作業主任者について準用する。この場合 において、同項第一号中「酸素欠乏」とあるのは「酸素欠乏等」と、同項第二号中「酸素」とあるの は「酸素及び硫化水素」と、同項第三号中「酸素欠乏症」とあるのは「酸素欠乏症等」と読み替える ものとする。
作業主任者の職務の分担、氏名等の周知について
作業主任者を2名以上選任したときの職務の分担について、また現場作業者に対して担当の作業主任者が誰なのか、はっきりと周知させる方法について定められています。
作業主任者の職務の分担
労働安全衛生規則 第17条 事業者は、別表第一の上欄に掲げる一の作業を同一の場所で行なう場合において、当該作業に係る作業主任者を二人以上選任したときは、それぞれの作業主任者の職務の分担を定めなければならない。
作業主任者の氏名等の周知
労働安全衛生規則 第18条 事業者は、作業主任者を選任したときは、当該作業主任者の氏名及びその者に行なわせる事項を作業場の見やすい箇所に掲示する等により関係労働者に周知させなければならない。
上記「等」には、「氏名」については、当該作業主任者に腕章をつけさせる、特別の帽子を着用させる等の措置が含まれます。
関連資格のご案内
作業をする方の資格について【有機溶剤業務従事者に対する労働衛生教育】
現場で酸素欠乏危険作業をする方は、特別教育を受ける必要があります。
この特別教育の正式名称は、「酸素欠乏危険作業特別教育」と言います。
【特別教育のきまり】
労働安全衛生規則 第36条第1項第37号
石綿障害予防規則第4条第1項(下記)に掲げる作業に係る業務
石綿障害予防規則 第4条(作業計画)
事業者は、石綿等が使用されている解体等対象建築物等の解体等の作業を行うときは、石綿による労働者の健康障害を防止するため、あらかじめ、作業計画を定め、かつ、当該作業計画により石綿使用建築物等解体等作業を行わなければならない。
石綿障害予防規則 第27条(特別の教育)
事業者は、石綿使用建築物等解体等作業に係る業務に労働者を就かせるときは、当該労働者に対し、次の科目について、当該業務に関する衛生のための特別の教育を行わなければならない。
特別教育の教育カリキュラム 、以下の通りです。およそ半日の教育時間です。
科目 | 範囲 | 時間 |
---|---|---|
石綿の有害性 | 石綿の性状 石綿による疾病の病理及び症状 喫煙の影響 |
30分 |
石綿等の使用状況 | 石綿を含有する製品の種類及び用途 事前調査の方法 |
1時間 |
石綿等の粉じんの発散を抑制するための措置 | 建築物、工作物又は船舶(鋼製の船舶に限る。)の解体等の作業の方法 湿潤化の方法 作業場所の隔離の方法 その他石綿等の粉じんの発散を抑制するための措置について必要な事項 |
1時間 |
保護具の使用状況 | 保護具の種類、性能、使用方法及び管理 | 1時間 |
その他石綿等のばく露の防止に関し必要な事項 | 労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)、 労働安全衛生法施行令(昭和四十七年政令第三百十八号)、 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)及び石綿障害予防規則中の関係条項 石綿等による健康障害を防止するため当該業務について必要な事項 |
1時間 |
以上の解説で、石綿の作業をする方は、特別教育を受けなければならない理由はご理解していただけたと思います。
特別教育の科目が定められています。
1 事業者は、第一種酸素欠乏危険作業に係る業務に労働者を就かせるときは、当該労働者に対し、次の科目につい て特別の教育を行わなければならない。
一 酸素欠乏の発生の原因
二 酸素欠乏症の症状
三 空気呼吸器等の使用の方法
四 事故の場合の退避及び救急そ生の方法
五 前各号に掲げるもののほか、酸素欠乏症の防止に関し必要な事項
1 前項の規定は、第二種酸素欠乏危険作業に係る業務について準用する。この場合において、同項第一号中「酸素欠乏」とあるのは「酸素欠乏等」と、同項第二号及び第五号中「酸素欠乏症」とあるのは「酸素欠乏症等」と読み替えるものとする。
特別の教育には次の2種類があります。
酸素欠乏危険作業特別教育規程
1 第一種酸素欠乏危険作業に係る特別教育
科目 | 範囲 | 時間 |
---|---|---|
酸素欠乏の発生の原因 | 酸素欠乏の発生の原因 酸素欠乏の発生しやすい場所 |
30分 |
酸素欠乏症の症状 | 酸素欠乏による危険性 酸素欠乏症の主な症状 |
30分 |
空気呼吸器等の使用の方法 | 空気呼吸器、酸素呼吸器若しくは送気マスク又は換気装置の使用方法及び保守点検の方法 | 1時間 |
事故の場合の退避及び救急そ生の方法 | 墜落制止用器具等並びに救出用の設備及び器具の使用方法並びに保守点検の方法 人工呼吸の方法 人工そ生器の使用方法 |
1時間 |
その他酸素欠乏症の防止に関し必要な事項 | 関係法令 業務について必要な事項 | 1時間 |
2 第二種酸素欠乏危険作業に係る特別教育
*下の表の (等) は、「酸素欠乏と硫化水素」のことをいいます。
科目 | 範囲 | 時間 |
---|---|---|
酸素欠乏(等)の発生の 原因 | 酸素欠乏(等)の発生の原因 酸素欠乏(等)の発生しやすい場所 |
1時間 |
酸素欠乏症(等)の症状 | 酸素欠乏(等)による危険性 酸素欠乏症(等)の主な症状 |
1時間 |
空気呼吸器等の使用の方法 | 空気呼吸器、酸素呼吸器若しく 送気マスク又は換気装置の使用方法及び保守点検の方法 | 1時間 |
事故の場合の退避及び救急そ生の方法 | 墜落制止用器具等並びに救出用の設備及び器具の使用方法並びに保守点検の方法 人工呼吸の方法 人工そ生器の使用方法 |
1時間 |
その他酸素欠乏症(等) の防止に関し必要な事項 | 関係法令 業務について必要な事項 | 1時間 30分 |
以上の解説で、酸欠・硫化水素の危険のある場所で作業をする方は、特別教育を受けなければならない理由は理解していただけたと思います。
ところで酸素欠乏危険作業主任者は「作業者」として作業をしても良いのでしょうか?
すでに解説した酸素欠乏危険作業主任者のしごとでは、作業主任者の業務に「作業の指揮」などの業務は入っていますが、その中に「作業」の業務が入ってないんです。もしかして作業主任者の資格では現場での作業はできないんじゃないか? そう思うのも無理はありません。結論をいうと「作業主任者の資格を持っていれば作業もできる。」です。 なぜなら「作業主任者」の資格は「特別教育」の資格よりも上位の資格として位置づけられているからです。 以下でその理由をお話しします。
【根拠】 労働安全衛生規則には、特別教育について以下の規定があります。
労働安全衛生規則 第37条(特別教育の科目の省略)
事業者は、法第59条第3項の特別の教育(以下「特別教育」という。)の科目の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については、当該科目についての特別教育を省略することができる。
つまり酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習を受けた方は、十分な知識及び技能を有していると認められる ので、「特別教育」はあえて受けなくてもよい。(言いかえると、作業主任者の資格があれば、作業者の仕事もできる。)となるわけです。
このほかに特別教育を省略できる方として、①以前勤めていた事業所で受けた方や②教習関で 特別教育を受けた方が当てはまりますね。
「作業主任者も作業をしても良い!」といっても、誤解があるといけないので申し添えます。
作業主任者の役割は作業現場全体を監督し作業者の指揮をすることが本来の仕事ですから、作業主任者自ら作業に集中するあまり、肝心の「指揮」の仕事がおろそかになってしまってはいけません。現場では作業者の「指揮」に専念して下さい。
作業主任者の資格の取得をおすすめします
酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者の資格を持っていれば上記の特別教育を受ける必要がありません。「酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習」の取得をおすすめします。