有機溶剤作業主任者技能講習の解説
有機溶剤・有機溶剤等とは
「有機溶剤」とは、物質を溶かす性質をもつ有機化合物のことで多くの種類があります。
有機溶剤中毒予防規則では、労働安全衛生法施行令 別表第6の2の有機溶剤をいい、44種類の有機溶剤とそれらの物のみからなる混合物のことをいいます。
また有機溶剤等とは、有機溶剤と他の物質の混合物で、有機溶剤を5%を超えて含有するものをいいます。
作業主任者についての労働安全衛生法のきまり
そもそも作業主任者とはどんな立場の人でしょうか?
労働安全衛生法は「作業主任者」について以下のように定めています。
(作業主任者)
労働安全衛生法 第14条 事業者は、高圧室内作業その他の労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるもの→労働安全衛生法施行令 第6条[下記参照]
については、都道府県労働局⻑の免許を受けた者又は都道府県労働局⻑の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該作業の区分に応じて、作業主任者を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。
危険又は有害な作業は多くありますが、その中でも特に危険性や有害性の高い作業については高度な知識と豊富な経験を持つ「管理者」が作業現場に常駐し、作業者を指揮する必要があります。その管理者を「作業主任者」といいます。事業者は作業の種類により「免許所持者」又は「技能講習修了者」の中から選任する必要があります。(有機溶剤作業主任者の場合は「技能講習」の修了が必要です。)
なおその職務の具体的な内容は、「有機溶剤中毒予防規則」により定められています。
作業主任者の選任について
作業主任者は有資格者の中から事業者が選任する必要があります。なお作業主任者の選任が必要な 「作業の区分」、「必要な資格」、「作業主任者の名称」は、労働安全衛生規則 別表第1(下表参照)に記載されています。
(作業主任者の選任)
労働安全衛生規則 第16条 法第14条の規定による作業主任者の選任は、労働安全衛生規則 別表第1の上欄に掲げる作業の区分に応じて、同表の中欄に掲げる資格を有する者のうちから行なうものとし、その作業主任者の名称は、同表の下欄に掲げるとおりとする。
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労働安全衛生規則 別表第1
作業の区分 | 労働安全衛生法施行令 第6条第22号の作業 一般的な有機溶剤(特別有機溶剤以外)の作業主任者はこの資格です。 労働安全衛生法施行令 第6条第22号(作業主任者を選任すべき作業) 屋内作業場又はタンク、船倉若しくは坑の内部その他の厚生労働省令で定める場所において別表第6の2に掲げる有機溶剤(当該有機溶剤と当該有機溶剤以外の物との混合物で、当該有機溶剤を当該混合物の重量の5パーセントを超えて含有するものを含む。第21条第10号及び第22条第1項第6号において同じ。)を製造し、又は取り扱う業務で、厚生労働省令で定めるものに係る作業 |
必要な資格 | 有機溶剤作業主任者技能講習を修了した者 |
作業主任者の名称 | 有機溶剤作業主任者 |
作業の区分 | 労働安全衛生法施行令 第6条第18号の作業のうち、特別有機溶剤又は令別表第3第2号37に 掲げる物で特別有機溶剤に係るものを製造し、又は取り扱う作業
特別有機溶剤関係の作業主任者はこの資格です。 参考までに「令第6条第18号の作業」を掲げます。 労働安全衛生法施行令 別表第三(下記参照)に掲げる特定化学物質を製造し、又は取り扱う作業 |
必要な資格 | 有機溶剤作業主任者技能講習を修了した者 |
作業主任者の名称 | 特定化学物質作業主任者(特別有機溶剤等関係)
有機溶剤の中でも発がん性のあるものは「特別有機溶剤」として特定化学物質の仲間に分類されています。ただしこの特別有機溶剤の取り扱い等の作業については「有機溶剤作業主任者技能講習」を修了する必要があり、またその場合の作業主任者の名称は、少し紛らわしいのですが「特定化学物質作業主任者(特別有機溶剤関係)」となっています。 |
労働安全衛生法施行令 別表第三 特定化学物質のうち「特別有機溶剤」にあてはまるものだけ抜き出してあります。
二 第二類物質
3の3 エチルベンゼン
11の2 クロロホルム
18の2 四塩化炭素
18の3 一・四−ジオキサン
18の4 一・二−ジクロロエタン(別名二塩化エチレン) 19の2 一・二−ジクロロプロパン
19の3 ジクロロメタン(別名二塩化メチレン)
22の2 スチレン
22の3 一・一・二・二−テトラクロロエタン(別名四塩化アセチレン) 22の4 テトラクロロエチレン(別名パークロルエチレン)
22の5 トリクロロエチレン
33の2 メチルイソブチルケトン
有機溶剤の分類
有機溶剤は労働安全衛生法施行令 別表第6の2(下記参照)に掲げてあり、有機溶剤の性質により第1種から第3種の3種に分類されています
有機溶剤中毒予防規則(第1条第3.4.5号)
第1種有機溶剤等 | 単一物質である有機溶剤のうち有害性の程度が高くしかも蒸気圧が高いもの |
第2種有機溶剤等 | 第1種以外の単一物質である有機溶剤 |
第3種有機溶剤等 | 多くの炭化水素が混合状態となっている石油系および植物系溶剤であって沸点がおおむね200°C以下のもの |
有機溶剤は労働安全衛生法施行令 別表第6の2
有機溶剤
一 アセトン
二 イソブチルアルコール
三 イソプロピルアルコール
四 イソペンチルアルコール(別名イソアミルアルコール)
五 エチルエーテル
六 エチレングリコールモノエチルエーテル(別名セロソルブ)
七 エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(別名セロソルブアセテート)
八 エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル(別名ブチルセロソルブ)
九 エチレングリコールモノメチルエーテル(別名メチルセロソルブ)
十 オルト‐ジクロル ンゼン
十一 キシレン
十二 クレゾール
十三 クロル ンゼン
十四 削除
十五 酢酸イソブチル
十六 酢酸イソプロピル
十七 酢酸イソペンチル(別名酢酸イソアミル)
十八 酢酸エチル
十九 酢酸ノルマル-ブチル
二十 酢酸ノルマル-プロピル
二十一 酢酸ノルマル-ペンチル(別名酢酸ノルマル-アミル)
二十二 酢酸メチル
二十三 削除
二十四 シクロヘキサノール
二十五 シクロヘキサノン
二十六 削除
二十七 削除
二十八 一・二‐ジクロルエチレン(別名二塩化アセチレン)
二十九 削除
三十 N・N‐ジメチルホルムアミド
三十一 削除
三十二 削除
三十三 削除
三十四 テトラヒドロフラン
三十五 一・一・一‐トリクロルエタン
三十六 削除
三十七 トルエン
三十八 二硫化炭素
三十九 ノルマルヘキサン
四十 一‐ブタノール
四十一 二‐ブタノール
四十二 メタノール
四十三 削除
四十四 メチルエチルケトン
四十五 メチルシクロヘキサノール
四十六 メチルシクロヘキサノン
四十七 メチル-ノルマル-ブチルケトン
四十八 ガソリン
四十九 コールタールナフサ(ソル ントナフサを含む。)
五十 石油エーテル
五十一 石油ナフサ
五十二 石油 ンジン
五十三 テレビン油
五十四 ミネラルスピリツト(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリツト、ホワイトスピリツト及びミネラルターペンを含む。)
五十五 前各号に掲げる物のみから成る混合物
有機溶剤の業務とは
有機溶剤の業務とはどのような仕事でしょうか?
具体的な業務については有機溶剤中毒予防規則に掲げてあります。
有機溶剤中毒予防規則(第1条第1項第6号)
6.有機溶剤業務 次の各号に掲げる業務をいう。
イ 有機溶剤等を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、撹拌(かくはん)、加熱又は容器若しくは設備への注入の業務
ロ 染料、医薬品、農薬、化学繊維、合成樹脂、有機顔料、油脂、香料、 味料、火薬、写真薬品、ゴム若しくは可塑剤又はこれらのものの中間体を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、撹拌(かくはん)又は加熱の業務
ハ 有機溶剤含有物を用いて行う印刷の業務
ニ 有機溶剤含有物を用いて行う文字の書込み又は描画の業務
ホ 有機溶剤等を用いて行うつや出し、防水その他物の面の加工の業務
ヘ 接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務
ト 接着のために有機溶剤等を塗布された物の接着の業務
チ 有機溶剤等を用いて行う洗浄(ヲに掲げる業務に該当する洗浄の業務を除く。)又は払しよくの業務
リ 有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務(ヲに掲げる業務に該当する塗装の業務を除く。)
ヌ 有機溶剤等が付着している物の乾燥の業務
ル 有機溶剤等を用いて行う試験又は研究の業務
ヲ 有機溶剤等を入れたことのあるタンク(有機溶剤の蒸気の発散するおそれがないものを除く。以下同じ。)の内部における業務
作業主任者が必要な有機溶剤業務の場所とは
作業主任者が必要な具体的な場所については有機溶剤中毒予防規則に掲げてあります。
有機溶剤中毒予防規則(第1条第2項)
2 令第六条第二十二号及び第二十二条第一項第六号の厚生労働省令で定める場所は、次のとおりとする。
一 船舶の内部
二 車両の内部
三 タンクの内部
四 ピツトの内部
五 坑の内部
六 ずい道の内部
七 暗きよ又はマンホールの内部
八 箱桁(けた)の内部
九 ダクトの内部
十 水管の内部
十一 屋内作業場及び前各号に掲げる場所のほか、通風が不十分な場所
有機溶剤作業主任者技能講習のきまり
有機溶剤中毒予防規則で技能講習の受講科目や時間などが定められています。この技能講習を修了すれば 「有機溶剤作業主任者」の資格を得ることができます。
有機溶剤中毒予防規則 第37条(有機溶剤作業主任者技能講習)
1 有機溶剤作業主任者技能講習は、学科講習によつて行う。
2 学科講習は、有機溶剤に係る次の科目について行う。
① 健康障害及びその予防措置に関する知識
② 作業環境の改善方法に関する知識
③ 保護具に関する知識
④ 関係法令
この他に「学科修了試験」があります。この修了試験に合格し、「技能講習修了証」を交付された後に「有機溶剤作業主任者」になることができます。
有機溶剤作業主任者のしごと
有機溶剤作業主任者の職務の内容は、「有機溶剤中毒予防規則」において定められています。
有機溶剤中毒予防規則 第19条の2(有機溶剤作業主任者の職務)
事業者は、有機溶剤作業主任者に次の事項を行わせなければならない。
1 作業に従事する労働者が有機溶剤により汚染され、又はこれを吸入しないように、作業の方法を決定し、労働者を指揮すること。
2 局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を一月を超えない期間ごとに点検すること。
3 保護具の使用状況を監視すること。
4 タンクの内部において有機溶剤業務に労働者が従事するときは、第二十六条各号に定める措置が講じられていることを確認すること。第28条 事業者は、特定化学物質作業主任者に次の事項を行わせなければならない。
① 作業に従事する労働者が特定化学物質により汚染され、又はこれらを吸入しないように、作業の方法を決定し、労働者を指揮すること。
② 局所排気装置、プッシュプル型換気装置、除じん装置、排ガス処理装置、排液処理装置その他労働者が健康障害を受けることを予防するための装置を一月を超えない期間ごとに点検すること。
③ 保護具の使用状況を監視すること。
④ タンクの内部において特別有機溶剤業務に労働者が従事するときは、第38条の8において準用する有機則第26条各号に定める措置が講じられていることを確認すること。
作業主任者の職務の分担、氏名等の周知について
作業主任者を2名以上選任したときの職務の分担について、また現場作業者に対して担当の作業主任者が誰なのか、はっきりと周知させる方法について定められています。
作業主任者の職務の分担
労働安全衛生規則 第17条 事業者は、別表第一の上欄に掲げる一の作業を同一の場所で行なう場合において、当該作業に係る作業主任者を二人以上選任したときは、それぞれの作業主任者の職務の分担を定めなければならない。
作業主任者の氏名等の周知
労働安全衛生規則 第18条 事業者は、作業主任者を選任したときは、当該作業主任者の氏名及びその者に行なわせる事項を作業場の見やすい箇所に掲示する等により関係労働者に周知させなければならない。
上記「等」には、「氏名」については、当該作業主任者に腕章をつけさせる、特別の帽子を着用させる等の措置が含まれます。
関連資格のご案内
作業をする方の資格について【有機溶剤業務従事者に対する労働衛生教育】
作業者は衛生教育を受けてから作業をすることが通達において強く求められています。
「有機溶剤業務の労働衛生教育」についての通達
有機溶剤業務従事者に対する労働衛生教育の推進について(昭 9.6.29 基発第337号)
有機溶剤中毒の予防対策の実効をあげるために、事業者が行う労働衛生管理に加えて、個々の労働者が有機溶剤の毒性及び中毒の予防対策の必要性を正しく理解し、事業者が行う諸対策に積極的に協力することが重要である。しかし、最近の有機溶剤中毒の発症事例をみると、労働者に対する労働衛生教育が行われていないか、又は不十分であることが原因であるものが依然として相当数にのぼっている。 一方、労働衛生教育の推進について 、昭和59年2月16日付け基発第76号「安全衛生教育の推進について」及び昭和59年3月26日付け基発第148号「安全衛生教育の推進に当たって留意すべき事項について」によりその推進を図ることとしたところである。これらの背景及び通達の趣旨を踏まえて、今般、「特別教育」に準じた教育として、別添のとおり有機溶剤業務従事者に対する労働衛生教育実施要領を定め、同教育を推進することとしたので、了知のうえ、その円滑な運用に努められたい。
有機溶剤業務従事者に対する労働衛生教育実施要領
1 目的
有機溶剤中毒の予防対策の一環として、有機溶剤業務に従事する者に対し、
(1) 有機溶剤による疾病及び健康管理
(2) 作業環境管理
(3) 保護具の使用方法
(4) 関係法令
についての知識を付与することを目的とする。
有機溶剤業務従事者に対する労働衛生教育カリキュラム
科目 | 範囲 | 時間 |
---|---|---|
有機溶剤による疾病及び健康管理 | 有機溶剤の種類及びその性状 有機溶剤の使用される業務 有機溶剤による健康障害、その予防方法及び応急措置 |
1時間 |
作業環境管理 | 有機溶剤蒸気の発散防止対策の種類及びその概要 有機溶剤蒸気の発散防止対策に係る設備及び換気のための設備の保守、点検の方法 作業環境の状態の把握 有機溶剤に係る事項の掲示、有機溶剤の区分の表示 有機溶剤の貯蔵及び空容器の処理 |
2時間 |
保護具の使用方法 | 保護具の種類、性能、使用方法及び保守管理 | 1時間 |
関係法令 | 労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則及び有機溶剤中毒予防規則(これに基づく告示を含む。)中の関係条項 | 0.5時間 |
ところで有機溶剤作業主任者は「作業者」として作業をしても良いのでしょうか?
すでに解説した有機溶剤作業主任者のしごとでは、作業主任者の業務に「作業の指揮」などの業務は入っていますが、その中に「作業」の業務が入っていません。もしかして作業主任者の資格では現場での作業はできないんじゃないか? そう思うのも無理はありません。結論をいうと「作業主任者の資格を持っていれば作業もできる。」です。 なぜなら「作業主任者」の技能講習資格は特別教育に準ずる「有機溶剤業務の労働衛生教育」よりも上位の講習として位置づけられているからです。以下でその理由をお話しします。
【根拠】 労働安全衛生規則には、特別教育について以下の規定があります。
労働安全衛生規則 第37条(特別教育の科目の省略)
事業者は、法第59条第3項の特別の教育(以下「特別教育」という。)の科目の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については、当該科目についての特別教育を省略することができる。
つまり有機溶剤作業主任者技能講習を受けた方は、業務に関して十分な知識及び技能を有していると認められるので、「特別教育」はあえて受けなくてもよい。(言いかえると、作業主任者の資格があれば、作業者の仕事もできる。)となるわけです。 なお「有機溶剤業務の労働衛生教育」は上記の通達において「特別教育」に準じた教育として、位置づけられています。
「作業主任者も作業をしても良い!」といっても、誤解があるといけないので申し添えます。
作業主任者の役割は作業現場全体を監督し作業者の指揮をすることが本来の仕事ですから、作業主任者自ら作業に集中するあまり、肝心の「指揮」の仕事がおろそかになってしまってはいけません。現場では作業者の「指揮」に専念して下さい。
作業主任者の資格の取得をおすすめします
有機溶剤作業主任者の資格を持っていれば上記の労働衛生教育を受ける必要が ありません。「有機溶剤作業主任者技能講習」の受講をおすすめします。